空前のサウナブーム到来と言われ、専門誌は大ヒット。「ロウリュウ」なるイベントが大盛況で、いまやサウナは老若男女が集うレジャースポットだ。しかし、サウナと言えば心筋梗塞や脳梗塞の引き金になることも知られている。ブームの今だからこそ、サウナの魅力と注意点を探った。
数々の健康効果が認められているサウナだが、気がかりなこともある。81歳女性は数年前に心臓を患い、ドクターストップがかかってサウナをやめていたという。また2003年、歌手の西城秀樹さんがサウナ入浴後に脳梗塞を発病したのは記憶に新しい。
「高温のサウナ、そして直後の冷水浴が脳梗塞や心筋梗塞の引き金となりうるのは事実です。特に中高年の方は、十分注意する必要があります」(同)
原田医師によれば、サウナは心筋梗塞・脳梗塞のほか不整脈なども引き起こす可能性があるという。そういった動脈硬化性の病気を引き起こす原因のひとつは、大量の発汗により脱水状態になること。血液中の水分が減少して血栓ができやすくなるのだ。
もうひとつは、血圧が急激に変動すること。サウナに入ると、直後は急激な温度変化に反応して血圧が上昇するが、やがて血管が拡張して血圧が下がる。が、サウナから出た後に冷水を浴びると再び急上昇する。このような血圧の急変が心臓や脳の血管にダメージを与えるのだ。
「心配なのは、血圧が上がったときだけではありません。実は血圧が下がったときに脳の血流が極端に停滞し、脳梗塞を起こすこともあるのです。また、サウナから出るとき、血圧が下がりすぎていて失神・転倒する恐れもあります。そういう意味では、サウナの後の冷水浴は血圧を上げる手段として有効とも言えるのですが……」(同)
血管の柔軟性が失われつつある中高年にとっては、血圧を上げる有効性より負担のほうが大きいのだと原田医師は言う。
「そもそも血圧の変動や脱水は、高齢になれば誰でも起こりやすくなるものです。ですから60歳以上の人は、あまり温度差が激しくならないように工夫することが大切です。低温サウナにしたり、冷水浴の代わりに涼しいところでクールダウンしたり。そういう意味では、今流行のロウリュウは、どちらかと言うと若い人向きかもしれません。特に血圧が高めの人や動脈硬化の危険性を指摘されたことがある人は、よほど慎重に利用すべきだと思います」(同)
ところで、記者はサウナの中で呼吸が苦しくなることがやや気になった。考えてみると、100度もの熱気を吸い込んで肺や呼吸器に支障はないのだろうか? 素朴な疑問に答えてくれたのは、池袋大谷クリニック(東京都豊島区)の大谷義夫医師だ。
「サウナが原因で気道に熱傷が生じたという事例は聞いたことがありません。消防活動に関するある研究報告によると、高温下でも湿度が低ければ即座に火傷(やけど)を負うことはないそうです。温度105度で高湿度なら火傷するまで数分間ですが、低湿度なら26分かかります。湿度が低い乾式サウナなら、高温でもある程度長く入浴していられるのです。フィンランド人はうまいことを考えたな、と思います」
なるほど、水と空気では熱伝導のスピードが違い、低湿度ではスピードがより遅くなるのだ。では、高温下で息苦しいのはなぜなのだろう?
「たしかに、私もサウナで口呼吸をすると苦しく感じることがあります。気管支の粘膜が敏感になり、温度差に反応しやすくなっているのかもしれません。そういうときは、ゆっくり鼻呼吸をするのがおすすめです。あるいは、濡れタオルを口元にあてて乾燥を防ぐ。ただし、高湿度の熱気を吸い込み続けることになりかねないので、あまり長く続けないほうがいいでしょう」(大谷医師)
中高年にとって注意すべき点もあるが、サウナにはさまざまな健康効果がある。なんと言っても、あの爽快感は魅力だ。
「正しく入りさえすれば、中高年の方でも安全にサウナを楽しめます。水分補給をすることと、長く入りすぎないことがポイントです」(若林さん)
記者がサウナで出会った81歳女性は、病状が改善したのでその日久しぶりに大好きなサウナに来たのだという。
「やっぱり気持ちいいねえ」
その顔は熱気で紅潮し、ほころんでいた。サウナを長く楽しむため、読者諸氏もぜひ下のリストを参考に、無理のない入り方を実践していただきたい。
■サウナ入浴時の注意点
×高血圧の人の長時間高温浴
×生活習慣病(糖尿病、脳卒中、心臓病、高血圧など)の人の温冷交代浴
×飲酒・泥酔状態での入浴
△満腹状態での入浴(消化器官に集中すべき血液が分散する)
△入浴後に一気に冷水に飛び込む(心臓に負担がかかる)
△入浴後に水分をとらずに飲酒する(脱水状態になりやすい)
(ライター・伊藤あゆみ)
※週刊朝日 2014年8月22日号より抜粋