2014年7月10日 @ 12:01
勝谷誠彦の××な日々。より
これは「大事件」ですよ。
<ベネッセ顧客情報漏洩、社外関係者が関与か/最大2070万件、警視庁が捜査>
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ09H7X_Z00C14A7MM8000/
<ベネッセホールディングスは9日、傘下のベネッセコーポレーションから通信教育講座「進研ゼミ」などの顧客情報760万件が社外に漏洩したと発表した。詳細は現在調査しており、情報漏洩は最大2070万件に達する可能性がある。ベネッセからの被害相談を受け、警視庁は9日までに不正競争防止法違反容疑で捜査を始めた。>
ベネッセとしては会社の存続にかかわる出来事だと認識したのだろう。危機管理としての対応は素早い。よくありがちな「逐次撤退」ではなく、まあまあの引責をまずはしてみせた。
<問題解決後に前社長の福島保副会長と最高情報責任者を務める明田英治取締役が引責辞任すると説明した。>
しかし事態の深刻さからいって、最終的には原田泳幸会長兼社長の責任はまぬがれないのではないか。「子どもの情報」ということが何よりも深刻なのである。しかも、もし2070万件だとすれば重複はあるにせよ「この国の子どもの何割か」に当たるだろう。
<漏洩した情報は進研ゼミを受講する子供や保護者の名前や住所、電話番号など。クレジットカード番号や銀行口座の情報の漏洩は確認されていない。>
ベネッセはしきりの後半の部分を強調するし、財界御用達の日本経済新聞としてはまんまとそれに乗せられているわけだが、私は<子供や保護者の名前や住所、電話番号>の方がはるかに深刻だと考える。大人のクレジットカード番号や銀行口座ならば、気がつけばすぐに対応できるし、金融機関にも防御システムはある。しかし、子どもたちの個人情報はいちど流出すれば永遠に出回り続けるだろう。氏名、住所、電話番号というのはもっとも基本的な情報だ。基本的なものほど、詐欺師にとっては使い勝手が良く、かつカネになるのである。
更に深刻なのは「重大な犯罪」に結びつく可能性があることだ。ベネッセはそれをどこまで認識しているのか。大マスコミはなぜ言及しないのか。
カード番号や銀行口座ならば悪用されても言ってしまえば「ゼニカネ」のことである。しかし子どもの個人情報は、もっと危ない事態を招きかねない。個人情報保護が言われだして親たちがいちばん影響を受けたのは、クラスの名簿や連絡網が消えたことでしょうね。不便極まりない。しかしそれは「危うさ」を考えると仕方がないことだった。誘拐や暴行、傷害といった「命にかかわる犯罪」の材料にされかねないからだ。
逆にこのことが「子どもの個人情報」の名簿業者の間での市場価値を高めていた。
<子どもの名簿は高価格>
http://digital.asahi.com/articles/ASG796FQ5G79UTIL03P.html
<2005年4月に個人情報保護法が全面施行されてから、業者が本人の同意もなく名簿を作成・販売することは厳しく制限された。閲覧も事実上できなくなったという。
このため、05年以降に生まれた子どもたちの個人情報は、業者にとって把握しづらく、価値が高いのだという。>
繰り返すがまだ、教材屋などの間で出回っているうちは「命にかかわり」はない。しかし、ペドフィリアたちがこの名簿を手に入れると起きることを考えると、私は慄然とせざるを得ない。いや、手に入れるだろう。ネット上に出回った情報が回収できないのはご存じの通りである。高いカネで購入した業者は、モトをとろうとする。拡散するのは時間の問題で、やがては無料で手に入れることができるようになる。
元事件記者としてこの国の暗部ばかりのぞいてきた悲しい過去を持つ私は、どうしてもこういう時は、犯罪者の立場に立って考えてしまう。「子どもの名前」だけなら、まだマシだった。問題は「親の名前」や「住所」などがセットであることだ。社会的な地位を持たない子どもにとって、唯一の「ID」は親の名前などとの「結びつけ」なのである。
逆に言えば、自分の親のフルネームや住所を持ち出されたならば、子どもは相手を信じてしまう。「ナニナニさんの娘ね?お父さんが大変」と呼び出されて(なんと電話番号まで流出している!)幼い子どもがひっかからないだろうか。
そういう犯罪が起きて、今回の事件との関連が確定したならば、もちろんベネッセなどという会社は吹っ飛ぶが、防げなかった行政や政治の責任も問われると私は思う。
かなり深刻な事態である。心当たりがある親は、子どもと話しておいた方がいいし、親どうしも「ベネッセやってた?」とお互いに声をかけあうべきだろう。もしまわりに可能性がある知人がいれば、何かの機会に注意喚起していただくのもいいと思う。